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La Fonte des neiges 雪解け/ヌーディスト・キャンプのレオ

フランス映画 (2008)

マーク・ベッファ(Marc Beffa)が、母に嫌々ヌーディスト・キャンプに連れて来られた12歳のレオを演じるコメディタッチのショートフィルム。それだけ聞くと卑猥な映画のように誤解されるが、独仏共同出資のテレビ局アルテ(Arte)で放映できるよう「注意深く」製作された作品で、多くの国際映画祭で好評を得ている。フランスには2017年の段階で177ヶ所のヌーディスト・キャンプ(camping naturiste)がある。しかし、そうした場所が映画の対象となることはほとんどないし、ましてや12歳の少年が主役になるなどということは考えられない。しかし、このショートフィルムでは、それを見事にやってのけている。成功の秘訣は、「少年が裸になりたくない」のはもちろん、「裸を見るのもいや」という純粋な心の持ち主であること。実際、映画の中でレオが全裸の姿を見せることはほとんどない。反対にほとんど全裸でいるのは、レオの友だちになろうとする少女。しかし、少女を演じているのは1985年生まれの女優で、レオとほとんど同じ年頃に見えてしまうが、成人なので問題はない。

バカンス・シーズンの終わる頃、12歳のレオは母の運転する車で、ヌーディスト・キャンプに向かっている。母にとっては20年ぶりの懐かしい訪問。レオにとっては拷問以外の何物でもない。ゲートをくぐった受付で、母は 昔このキャンプで親しくなったレオ(息子と同名)と再会するが、息子の方のレオは恥ずかしくて目も開けられない。母は、キャンプに入る直前で全裸になっていたのに、レオは、何重にも重ね着をし、視界が狭くなるよう、怪傑ゾロのようなアイ・マスクまで はめている。一夜明け、レオは、テントのジッパーを外す音で目が覚める。隙間に顔を入れて外を覗くと、そこには同年輩のヌーディストの少女がいる。新入りが来たと聞いて来たのだ。レオはおぞましいとばかりに追い払う。そして、昨夜から戻って来ない母を捜そうと、完全防備の服装でテントから外に出る。それをこっそりつけてきたヌーディストの少女は、目をつむって見ないようにするレオを強引に引っ張って森へ行くと、赤いキノコを見せる。そして、幻覚キノコだと紹介し、その場で食べて見せ、レオにも無理やり食べさせる。翌日、レオは少女が踊っているのをこっそり見ていると、見つかってしまい、翌日、2人だけで会うことを約束させられる。翌日の目隠しゲームは、目隠し状態で触ったものを当てるという遊びだったが、オレンジとトマトの次が少女のおっぱい。そんなものを触ったと恥ずかしくて言えないので、「りんご」と答えて負けてしまう。結果、裸にさせられるが、パンツだけは脱がない。2人は森まで行き、恐らくキノコを食べ、「自分ではなくなった」と信じたレオは、パンツを脱ぐ。翌日は、その ぎこちなさも取れ、レオは幻覚でも見ているように少女とはしゃぎ回る。その後、本気でレオのことが好きになった少女は、本当の自分を知ってもらおうと服を着て現れ、レオへの気持ちは「愛」だと打ち明ける。それを聞いて現実か非現実か分からなくなり、レオは思わず逃げ出す。そして、行った先は幻覚キノコの群生地。そこでキノコを大量に採取して調理し、母に食べさせる。ところが、母は全く正常のままで、キノコはただのキノコ、少女の話は嘘だったと分かる。少女は、レオの殻を破るために嘘をついただけなのだが、レオは「僕は、僕だったんだ!」とパニックになる。レオがヌーディストになったのは、キノコの幻覚のせいだと責任転嫁していたら、自分の意志でやっていたことが分かり、恥ずかしくなったのだ。清廉なレオには自分も少女も許せない。母に強引に頼んで、翌早朝、キャンプを引き払う。愛するレオに声をかけようとする少女を無視して。

マーク・ベッファは、撮影時12~13歳。本人が全裸になることは原則ないが、常に全裸の女性と絡むのは精神的にかなりの負担だったかもしれない。それは役柄上のレオの性格と全く同じなので、ごく自然に緊張感が伝わってくる。マークの出演映画はこれ1本のみ、2018年までパリ第1大学(通称ソルボンヌ)の大学院法学研究科に在学中。


あらすじ

母が車を停め、着ているものを脱ぎ始める。それをバックシートの助手席側で 縮こまるように横になり、レオはこっそりと見ている。レオは、真夏だというのに、服の上から真っ赤な防寒ジャンパーを着て首元までジッパーを上げ、緑の長いマフラーを何重にも首に巻きつけ、ニットウールの紺色のキャップをすっぽりかぶっている。スキーにでも行ける出で立ちだ。スキーの服装と違うところは、目に怪傑ゾロのようなアイ・マスクを付けている点。レオがこんな格好をしているのは、ヌーディスト・キャンプに連れて行かれるという「おぞましい」事態に対する、精一杯の反抗と実質的対処。レオにとっては、生まれて初めての恥ずかしくて忌まわしい出来事なのだ。母は、運手席で体をくねらせて何とか全裸になると、キャンプに入っていく準備は完了。バックミラーで後部座席を見ると、レオが起きてこちらを見ている。「なんだ、起きてるじゃない」(1枚目の写真)。レオは、首を横に振って、まだ寝ていたいと意思表示。「少なくとも、ジャケットくらい脱ぎなさい」。再び首を横に振る。「寒いよ」。「それは、暑過ぎるからよ。暑過ぎると寒く感じるって、知ってる?」。「僕をアホだと思ってない? 寒いと言ったら寒いんだ。せっかくのバカンスを、動物園なんかで過すなんて」〔人間が裸でいる場所=動物園という発想〕。「動物園ですって? 何てこと言うの!」。こうして「楽しく」会話しながら、車はキャンプのゲートに近付いて行く(2枚目の写真)。道路からは多くのヌーディストが見える。走っている人、散策している人、球技をしている男性から老人まで。自分が想像していたより遥かに「気持ち悪い」事態に、レオは茫然と目はみはる(3枚目の写真)。
  
  
  

母は、ゲートをくぐって車を止めると、管理事務所を訪れる。そこにいる中年の管理人も、当然全裸だ。レオは姿が見られないよう、母の後ろにしがみついている(1枚目の写真)。管理人:「カロリーヌじゃないか?」。母:「ボンジュール」。「電話の時より 声が上ずってるようだな」。「20年ぶりだから。ピンクの橋、まだある?」。「もう壊れた」。「ホント?」。「ミニゴルフは まだあるがね。ここへは1人で?」。「ええ… 実はね、息子と一緒なの」と言うと、背後に隠れていたレオを見せる。今までとは位置関係が逆転し、全裸同士の母と管理人の間に立たされたレオ。「よお、お若いの。何て名前だい?」と訊かれ、握手の手を差し出されると、左手でアイ・マスクを覆い、握手をしながら「レオ」と一言(2枚目の写真)。「レオだって? 俺と同じ名前じゃないか!」。「この子、恥ずかしがりやなの」。「ここには、君と同年代の子供たちもいっぱいいるぞ」。レオ:「興味ない」。「興味がないって? じゃあ、大人に関心が?」。「ううん、関心なんかゼロ。誰にもね」。管理人は、母に、「どこでも好きな場所にどうぞ。もうシーズン終わりだから」と告げる。
  
  

母は、空いたスペースにテントを張り始める〔レオのお尻に「339」という数字が見え、大規模なキャプだということが分かる〕。周りには、キャンピング・カーが結構停まっていて、テントの方が珍しい。母は、テントの扱いに慣れていないのと、レオが傍観しているだけなので、悪戦苦闘(1枚目の写真)。「何よ! 手伝おうともしないで!」。結局、1回目のトライアルで、テントは無残に崩れ落ちる。それを無感動に見ているレオ(2枚目の写真)。「なんで、そんな顔して見てるの?」。半分腹を立て、半分冗談の母は、レオに襲いかかって、ジャンパーを脱がせようとする(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、テントの中に1人取り残されたレオ。ここで、独白が入る。「僕は平気さ。どうして、そうじゃないって見えるのかな? 冷凍庫を飲み込んじゃった気がするだけなのに。体中 冷え切って、寒気がして鳥肌が立ってるけど」。そして、一晩が過ぎ、パジャマ姿でレオが横になっている。左手の爪を噛み、足の指同士を動かしているのは、神経質になっている証拠だ。「何だか、母さんのペットの子犬にでもなった気がする…」。
  
  

その時、テントのジッパーが少し開く音がする。「ママ?」といって、半身を起こすレオ(1枚目の写真)。レオが、下の方だけ開いたジッパーから首だけ外に出すと、目の前には同年代の1人のヌーディストの少女が座り込んでいる。そして、その隣には2人の遊び友達が(2枚目の写真)。男の子:「やあ、君がレオか?」。レオは首をひっこめ、「違う」と答える。女の子が、「隠れちゃった? 楽しくないの?」。「僕の体、零下15℃だから」。少女:「15℃?」。男の子:「鍾乳石だな」。少女が隙間から手を入れてレオの頭に触る。体温は正常だ。レオは頭を逸らして、手を払いのける。一旦は引っ込んだ手が、もう一度中に入ってくる(3枚目の写真)。「一緒に遊びに行かない?」。女の子の手がレオをまさぐり、レオは「ううん」と答える。「子供じみたことはやらない。それに嫌いなんだ」と言いかけると、手で口をふさがれる。レオは、歯を剥き出しにして手を噛み、少女は「痛い」と叫んで手を引っ込める。こうして レオは「厭わしきもの」の撃退に成功。
  
  
  

母は、昨夜、テントの外で、管理人と話していたのが聞こえて以来、姿を見せていない。心配になったレオは、完全防備に身を包み、キャンプの中へと出て行く。間近で見る全裸の老若男女に慄きながら、レオはギターを弾く少女の声にも惹かれ、少しずつ近付いていく。今朝方、テントの前にいた少女だ。レオは、木の幹を背に、半ば茫然として歌を聴いている。次のシーンで、レオは、母を捜して森の中に入って行く。そして、母が地面に薄いシートを敷いた上に眠っていて、そのそばに付き添った管理人が、自分の麦わら帽子を 日除け代わりに母の頭にのせてやるのをじっと見ている(1・2枚目の写真)。レオは全く気付いていなかったが、レオの隠れている木の1本後ろの木に、先程の少女が隠れてレオの方を窺っていた(3枚目の写真)。
  
  
  

レオは、管理人が母から立ち去って行くのをじっと見ている。その隙に、少女は、足を忍ばせてレオのところまで歩いていくと、突然、レオの背中をつつく(1枚目の写真)。どきっとして振り向いたレオは、驚きで目が飛び出しそうになる(2枚目の写真)。あわててアイ・マスクをかけ、少女を見ないよう顔を伏せる。「お母さん、きれいな人ね」。「違うよ、動物みたいで ぞっとする」(3枚目の写真)。「あなた、目がどこか悪いの?」。返事がない。「何歳?」。「12」。「わたし、アントワネット。会えて嬉しい?」。アントワネットが手を差し出し、レオは渋々握手する。
  
  
  

アントワネットは、握手したままの手をしっかりつかむと、そのまま駆け出した。レオは、手を引かれる形で、仕方なく、一緒に走って行く。アントワネットは、赤いキノコが群生している場所まで来ると、走るのをやめて手を離した。そして、1人でキノコのそばまで行くと、1本手に取り、いきなり食べる(1枚目の写真)。レオは びっくりして見ている。「このキノコを食べると、何時間も 私じゃなくなるの。現実が非現実になり、終わりのない夢みたいになって、怖いものがなっちゃう」〔実は、レオの呪縛を解くための嘘〕。そして、キノコを持ったまま立ち上がると、「ほら、もう別の誰かになったみたい。ポーランド人か、スペイン人、それとも、人類の祖先かな」と言いながら、レオ向かってフラフラと歩いて来る。そして、さあ食べなさいとばかりに、レオの口元にキノコを差し出す。アントワネットは、首を横に振るレオを無視し、口にキノコを押し込む。仕方なく、一口噛むレオ(2枚目の写真)。アントワネットは、もう一口噛ませると、「座りましょ。でないと、倒れちゃう」と言って 草の上に2人で座る。そして、「窒息して死んで欲しくない」と言うと、レオの首に何重にも巻かれたマフラーを外す(3枚目の写真)。それが終わると、今度は、ジャンパーのジッパーを「血行のためよ」と言って下げ始める。レオ:「毎日 キノコ食べるの?」。「毎日じゃない。効き過ぎるから」〔この、キノコの嘘は、後で大きな展開を見せる〕。アントワネットがジッパーを外すと、脱がされると勘違いしたレオは、アントワネットの頬を平手打ちする。そして、自分のしたことに恐れをなして逃げ出す。
  
  
  

アントワネットを叩いてしまい申し訳ないと感じたレオは、翌朝、そっと様子を覗いに行く。アントワネットの家族は長期滞在らしく、バンガローを借りている。両親はバンガローの前の寝椅子に横になり、その前の芝生の上で、アントワネットがレオの残して行ったマフラーを首から下げて踊っている(1枚目の写真)。しかし、アントワネットがくるくる回った瞬間、壁の角から覗いていたレオが見つかってしまう。アントワネットは、昨日叩かれたことなど忘れてしまったかのように、嬉しそうにレオの手を引いて芝生の上に引っ張り出す。そして、棒立ちになったレオの周りをコケティッシュに踊りながら一周すると、レオの手を取りくるくる回らせる。そして、レオが回り終わったところで、ピタリと体を寄せる。そして、「明日、会いましょ。両親が散歩に出かけるから」と囁くと(3枚目の写真)、額にキスしレオの前で誘うように踊って見せる。
  
  
  

いよいよ翌日。映画は、アントワネットのバンガローの中で、2人が向かい合って座っている奇妙な構図で始まる(1枚目の写真)。レオはキャンプに来て以来、初めて夏らしい服装をしている。2人がこれからするのは、目隠しをして、触ったものを当てるゲーム。そうした事前説明はなく、映画では、いきなりアントワネットがレオの顔にマフラーを巻きつけて目隠しをする。そして、半割りにしたオレンジを無言で前に差し出す。レオも無言で手を伸ばすとオレンジに触ってみて、すぐに「オレンジ」と答える。次にアントワネットが取り出したのは、半割りにしたトマト。レオは、先程と違い、柔らかい身の中に指を突っ込んでぐちゃぐちゃにしてから「トマト」と答える。3度目は、アントワネットがレオの右手を取って、自分の左胸を触らせる(3枚目の写真)。レオの答えは、「リンゴ(Pomme)」。自分が何を触ったか分かり、自分がしたことが恥ずかしく、口に出しては言えなかったので、わざと間違えて答えたのだ。
  
  
  

レオが間違えたので、次はアントワネットの番。レオは自分でマスラーを外し、アントワネットの顔にマフラーを巻きつける(1枚目の写真)。以後の映像がないので状況は分からないが、アントワネットが全問正解し、ゲームに勝ったに違いない。負けたレオは、アントワネットの要求に従い、このキャンプでの正装、ヌーディストになることに。次のショットでは、アントワネットは外に出ていて、バンガローの中からヌーディストになったレオが出てくる(2枚目の写真)。「わあ、セクシーね。気に入ったわ」。しかし、レオはパンツをはいたままだ。「僕のミミズみたいだから、ぞっとしちゃって」。「ぞっとする? 前にも言ったけど、それって好きな言葉なの?」。そう言うと、アントワネットはレオに近付き、「秘密を言っちゃうわね。あなたのこと大好きよ」と打ち明ける(3枚目の写真)。そして、2人は手をつないで去って行く。
  
  
  

野原を駆けて誰もいない場所へ行った2人〔恐らく、キノコも食べたのであろう〕。レオはまっすぐ正面を見つめて覚悟を決め(1枚目の写真)、深呼吸をすると、斜後ろにいるアントワネットの方を向いて「目を閉じてて」と頼む。そして、パンツを脱ぐ(2枚目の写真)。そして、180度まわってアントワネットの方を向くと、「目を開けていいよ」と言う。アントワネットは、レオが ようやく自分たちの仲間になったので、満足そうに微笑む。次のシーンでは、レオがアントワネットの横に座って髪の毛を数えている。7まで数えた時、アントワネットが「キスして」と言う(2枚目の写真)。レオは、恐る恐るキスし、次にはしっかりキスし、最後には愛しむようにキスの感触を楽しむ(3枚目の写真)。上半身しか映らないが、すごく官能的なシーンだ。あれだけ拒否反応を示していたレオが、ここまでくることができたのは、アントワネットがいたお陰だ。キスし終わった後のレオの顔は、「自分のしたことが信じられない」といった雰囲気だ。レオは、こうした出来事は、すべてキノコの幻覚のせいで、「自分は自分ではない」「別の自分がこんなことをした」と信じきることで、自らを解放したのであろう〔キノコの嘘の延長線上にある重大な「錯覚」〕
  
  
  
  

夕方、シャワーを浴びたレオは、誰もいないことを確かめると、鏡の前に立って自分自身を見る。心臓の鼓動の音が聞こえる(1枚目の写真)。おもむろに口ずさみ始めるレオ。「♪何が要るかな… 愛撫のキスに… 夜明けの赤色…」。そして、踊りながら歌う。「♪くだらない決まりなんか要らない。うんざりする自制なんか要らない。ラヴに必要なのは何? ひと目見て突っ走ること。ラララララ」(2枚目の写真)。これだけ見ていると、レオがキノコの幻覚作用で、完全にハイの状態になっているようにも見える。
  
  

翌日、2人で森へ行って赤いキノコを食べる。レオは、近くにあった蟻の巣におしっこをかけて、「見てごらん、洪水だ」と喜ぶ。幻覚キノコだと信じ切ったことによる、一種の自己催眠効果だ。そして、2人で手をつないで、キャンプの中心を、人前も構わずに走る。「心臓がドキンドキン、すごく早く打ってる」。「第2段階に入ると、そうなるの」〔キノコの嘘の続き〕。アントワネットは、「男の子と付き合うの、これが初めてなのよ」と打ち明ける。「キノコってすごいや!」(1枚目の写真)。「まだ序の口よ」。その時、2人の正面に母と管理人の姿が見える。「ねえ、見て! あそこ、あなたのお母さんよ!」。レオは、大声で「ママ! ママ!」と手を振る(2枚目の写真、全編中、レオの唯一の全裸姿)。その時、アントワネットが、ため息混じりに、「まあ、待って、こんなのあり得ない」と言って自分の手のひらを見る。手が濡れて、液体が滴り落ちている。「恥ずかしいわ」〔何のことか、さっぱり分からない〕。レオは、「何でもないよ」と優しく言い、手の甲を自分の頬で拭う。そして、濡れた手のひらを頬に当ててきれいにする。レオの優しさがよく分かる。表情もとてもいい(3枚目の写真)。「魔法だね」。レオはそう言うと、アントワネットの顔をうっとりと見続ける。恋人同士のように見えるが、レオにとっては、あくまで幻影で非現実の出来事でしかない。
  
  
  

それから、2人はアントワネットのバンガローに行く。アントワネットが本格的にレオが好きになり、本当の自分の姿を見て欲しくなったのだ。アントワネットは、一番のおしゃれをしてくると、「目をつむってて。しっかりよ」と頼む。目を思い切り閉じるレオ(1枚目の写真)。アントワネットは、地面に降りてくると、「もう、開けてもいいわ」と言う。レオが振り返ると、アントワネットはくるりと回って見せる。「私ね、服着てる方がずっと好きなの。でも、あなたがいなかったら、ここで服なんか着なかった」。「僕だって、君がいなかったら、服脱がなかったよ」。それを聞くと、アントワネットはレオの手を取り、「ホント言うと、裸でいるのも嫌いなの。両親を喜ばせようと思って…」と言うなり、レオを後ろから抱きしめて、「ありがとう」と囁く(2枚目の写真)。レオは前向きになってアントワネットを抱きしめる。アントワネットがそれに応えて両手で背中を強く抱く。そして、感極まって 「これが、愛なのね」 と漏らす。しかし、その言葉を聞くと、レオは体を意図的に離す。「どうかしたの?」。ますます離れるので、「行っちゃうの?」〔フランス語の“descente”に適切な訳語がないため、少し意訳〕と訊く。その言葉に構わず、レオは走り去る。相思相愛のはずの相手から、愛していると言われて、なぜ反発したのか? レオは、自分が意に反して裸になったことを含め、すべてキノコの幻覚のせいだと信じ込んでいた。アントワネットは、かつて、「現実が非現実になり、終わりのない夢みたいになって…」とキノコの効能をレオに話した。だから、レオにとって、キノコを食べた後の2人の関係はクレイジーな非現実であり、夢の中の出来事だった。だから、人前で裸になることだって出来た。そんな相手から、急に現実のような真面目な顔で、想像を絶することを言われたので、動転したのであろう。レオの向かった先はキノコの群生地だった。どうしても真偽を確かめないと。キノコの幻覚が本当なら、先程のアントワネットの「愛」も幻覚でしかない。残念だが、安心できる。でも、キノコの幻覚が本当でなかったら…
  
  

レオは、すべての原点であるキノコの前に立ち、じっと見ていると、あることを思いつく(1枚目の写真)。それは、大量にキノコを採って行き、第三者である母に食べさせることだった。息子の手料理にびっくりして食べ始めた母だったが、結構おいしいので、「料理が上手なのね」と褒め、もりもりと食べる。「こんなおいしいキノコ、どこで見つけたの?」。レオは、結果如何と母を見守る(2枚目の写真)。「あなたは食べないの?」。「満腹なんだ」。「あなたのガールフレンド、とってもいい子ね」。「ガールフレンドなんかじゃない」〔レオの気持ちがよく現れている〕。レオは、逆に訊き返す。「体、熱くない?」。「ぜんぜん」。「心臓、ドキドキしない?」。「ぜんぜん」。「でも、どこか変な気分だよね?」(3枚目の写真)。「笑わせようとしてるんでしょ?」。レオは、キノコが母に幻覚を起こして欲しい。そうそれば、自分がやってきた破廉恥な行為〔レオなりの解釈〕は全部キノコのせいだと思っている。アントワネットからの愛の告白にはドキっとしたが、キノコがやったことなら頷ける…
  
  

その夜、テントで、母とレオが並んで寝ている。今まで見たことのない光景だ〔これまで、母はずっと管理人と夜更かししていた〕。寝ていた母が、突然ニコっと笑い、「レオ、胸に手をのせて」と言う。もちろん寝言だ。管理人のレオと寝ている夢でも見ていたのだろう。しかし、自分の名前を呼ばれたと思ったレオは、ためらいながら、母のおっぱいを両手で覆う。びっくりして目を覚ました母は、「正気なの? 何するのよ!」と叱る。様子が変だと感じたレオは、「ママ」と呼びかけ、「気分が悪いの?」と訊く。「心臓、ドキドキしない?」。「それしか言わないのね」。レオは、飛び起きて、管理人の家のドアを叩く。そして、出て来た管理人に「僕、母さんを食中毒にしちゃった!」と言ってキノコを見せる(1枚目の写真、矢印はキノコ)。「このキノコなら、大丈夫」。「じゃあ、何日も食べ続けても、平気なの? 感覚も、思考も正常なの?」(2枚目の写真)。「あるとしたら、腹痛ぐらいだな」。それを聞いたレオは、「僕は、僕だったんだ〔Je suis moi-même〕! 2人とも変わってなんか いなかった! キノコのせいじゃなかったんだ〔C'est pas les champignons〕!」と叫びながら真夜中のキャンプを駆け抜け、アントワネットのバンガローへ向かう。そして、窓を叩こうとするが、気が変わってやめ、そこからは考え込んで歩きながら 自分のテントに向かう。テントに帰ったレオは、「ママ、起きて!」と母を起こす。「何時だと思ってるの?」。「今すぐ ここを出なくちゃ!」。「お昼過ぎにね」。「ママ、ものすごく大事な話があるんだ」。「何なの?」。「僕、操られてた」。母は、動転するレオを優しく慰める(3枚目の写真)。レオにとって、キノコの嘘は大ショックだった。「僕は、僕だったんだ!」という叫びは、「公衆の面前で裸をさらしたのも、全裸で女の子のキスしたのも、キノコのせいじゃなく、全部自分の意志でやった」という後悔と恥辱の念によるものだ。そして、レオにキノコのマジックをかけて、そうした行為をさせたのはアントワネット。だから、彼女には二度と会いたくない。それに、裸をさらしたキャンプからは、一刻でも早く出たい。こうした思いが、早朝の出立を決意させたのだ。
  
  
  

まだ薄暗い早朝〔8月末なら日の出は7時くらいなので、6時くらいか?〕、遠くで雷が鳴り、雨が降っている。母はレオの頼み通り、早起きしてテントを片づけ、車に荷物を積む。見送りにきた管理人と短い別れを済ませて、出発。車がアントワネットのバンガローの前にさしかかった時、アントワネットが出てきて母は車を停める。彼女は、窓に顔をくっつけるように中を覗く。レオは無言で彼女を見ている。母が、「さよなら言わないの?」と訊くと、その声が聞こえたアントワネットが車のドアを開けようとする。レオはすかさず、「早く出して」と母に言い(1枚目の写真)、アントワネットが、その言葉に驚き 傷ついて ドアから離れる(2枚目の写真)。車はそのまま動き出し、しばらくは、アントワネットも一緒についていくが、スピードが上がると道路に取り残される。数10メートル離れてから、アントワネットは右手を上げてさよならの意志表示。それからさらに数10メートル離れてから、レオも左手を振る(3枚目の写真)。寂しく悲しいラストだ。この映画、舞台はヌーディスト・キャンプで、際どい場面や、コミカルな部分も多いが、一番のポイントは主人公レオの初々しい心の遍歴であろう。そう考えれば、この結末は必然でもある。映画の最後にモノローグのように入るレオの言葉、「僕は もう大丈夫」「最高だった!」からは、成長して1歩を踏み出そうとするレオの姿が覗える。
  
  
  

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